テーマ:「フィンランドの文化と教育から考えるwell-being
【目的/ねらい】
1)フィンランドのwell-beingな考え方を参考に、これからの人材育成・くらし方・働き方・社会のカタチを共に考える。
2)豊森なりわい塾の考え方を広く知ってもらうきっかけとし、第10期募集告知をスタートする。
日時 | 2021年1月31日(日)13:30~15:30 |
場所 | オンライン発信会場:とよたエコフルタウン プロジェクトゾーン |
スケジュール | 13:30~13:40 あいさつ・豊森なりわい塾とは 13:40~14:30 レクチャー『フィンランドの文化と教育から考えるwell-being』 ゲスト講師:坂根シルック氏 14:30~15:20 トークセッション『コロナ禍の先にある未来~これからの豊森的学びとは』 坂根シルック氏×渋澤寿一×駒宮博男 15:20~15:30 第10期塾生募集について 15:30 終了 |
2021年1月31日(日)、豊森なりわい塾では久しぶりの公開講座『フィンランドの文化と教育から考えるwell-being(ウェル・ビーイング)』を開催いたしました!
直前に新型コロナウィルスの感染拡大による緊急事態宣言が発令され、豊田に来ていただく予定だったゲスト講師の坂根シルックさんや豊森実行委員長の澁澤寿一にも、オンラインでご登壇いただくことに。
今回も、第5期豊森卒塾生=合同会社アサノエンタープライズの浅野さんにお手伝いをいただき、豊田市の「豊かな暮らし」を目指す拠点、とよたecoful town内に新設された多目的スペース「プロジェクトゾーン」からオンライン配信致しました。
シルックさんのご講演の様子を、今年度から事務局に加わったスタッフ=戸田育代のレポートでお送りします!
政治、教育や子育て、働き方、生き方、全体に一貫して流れるフィンランドの価値観「ウェルビーイング」。すべての人がそれぞれに大切にされ、お互いに認め合う社会。自分の人生を自分で決める生き方・・・。 講演を聞きながら「すばらしい!」「うらやましい!」と何度も言いたくなってしまいました。その背景には、フィンランドの歴史や環境などが密接にかかわっているということがあり、もちろんフィンランドも課題を抱えていますが、今の日本の私たちに、ヒントになるお話や気づきがあふれていました。シルックさん(以下、親愛を込めてシルックさんと呼ばせていただきます!)のお話は、年齢や立場にかかわらず多くの人の心のどこかに深く響くと感じました。
シルックさんの講演後はトークセッションで盛り上がりました。「では今の日本はなぜこうなっているだろう」「私たちにできることは何だろう」と一緒に考えていくような時間になったのではないでしょうか。
豊森の学びのなかで、たびたび登場する「自治」に、鍵があるという希望も感じました。豊森のフィールドは豊田市の山村地域で、そこにもたくさんの「自治」のやり方や精神が残っています。
コロナ禍の影響も含め、日本も大きく変わっていく激動期ともいえるかもしれません。そんなときだからこそ、たくさんの方がご参加くださり、一緒に学べたことに感謝の気持ちです。ありがとうございました。
たいへんに盛り上がったシルックさんのご講演を紹介しますね。
講演内容
1.シルックさんプロフィールご紹介~フィンランドについて
2.男女平等、だけじゃない
3.ウェルビーイングとは
4.子ども、教育について
5.ライフスタイルについて
シルックさんのご紹介
坂根シルックさんは、3歳から小学校卒業までを日本で暮らし、フィンランドに戻りBusiness College Helsinkiを卒業後、1985年に再来日。子育てをしながら様々な日本のフィンランド系の企業や政府機関で仕事されてきました。現在は九州ルーテル学院大学の准教授であるほか、翻訳、通訳業や、フィンランドの紹介、教育についての講演など幅広く活躍されています。
「実は、フィンランドと日本はお隣のお隣の国なんですよ」とにこにこされるシルックさん。その間の国がロシアなので、とても広いのですが、その一言で急にフィンランドが身近になりました。日本から一番近いヨーロッパがフィンランドなのだそうです。
「今日の講演で、ウェルビーイングな、より自分らしく生きるヒントをなにかひとつでも持ち帰っていただけたら」とお話しされていました。ウェルビーイングって何?についてはのちほど。
フィンランドについて
まずは、フィンランドという国の成り立ちや歴史、人口や言葉、自然環境などについてお話されました。日本の四国を除いたほどの面積の国土に、人口はなんと北海道の人口と同じくらい。
国土の多くが森林で、自然豊か。四季の変化に富み、夏は白夜、冬は極夜があります。
歴史的にはロシアから独立してからまだ100年ほどの新しい国なのだそうです。
極寒で厳しいともいえる自然環境のなかで、フィンランドといえば幸福度、学力、女性の活躍、生活の質(QOL)など様々なランキングの上位の国で知られています。例えば、国連の幸福度ランキング1位/156ヵ国(2018年~2020年3年連続)。
2019年には、サンナ・マリーンさんを首相に5党連立政権が成立しました。マリーンさんが女性で34歳ということで日本でも大きく話題になりました。そして5人の党首もすべて女性、うち4人が30代。
マリーンさんは、ご自身で「貧しい家庭の出身」と話されていて、両親の離婚、母親が女性のパートナーと暮らすという環境で育ったということです。フィンランドでは政治家は一般人がなるものという価値観や、職業に上下はなくどの職業も大切、という価値観があるそうです。
男女平等、だけじゃない
極寒の地で、昔から女性も労働力として働いてきましたが、昔は男尊女卑社会だったそうです。それが少しずつ変わってきて、今では8割以上の女性がフルタイムで仕事をし、職場でも家庭でも役割に男女の差はありません。
仕事に関しては、転職は当たり前、むしろ良いこととされているそうです。キャリアや経験を積むため、次のステージに挑戦するために、むしろ何度も転職することをすすめられるのだそう。
そして、医療費が無料、大学院まで学費も無償と、税金が高くて社会福祉がしっかりしている福祉国家とも言われますが、シルックさんは、「社会福祉は手段であって、ウェルビーイング国家と言ったほうが正確かもしれない」とおっしゃっていました。
ウェルビーイングとは
ウェルビーイングとは、直訳すれば「自分がよい状態である」というような意味で、誰もが等しく尊重され自分らしく生きることを大切にする、というようなことだそうです。そして、それぞれに「ウェルビーイング」とはこういう状態だという答えがあると思うとのことでした。この「ウェルビーイング」という考え方が、フィンランドではとても大切にされているのだそうです。
ウェルビーイングと教育
教育については、学費がいっさいかからないだけでなく、日本の学校のような制服や体操服を買う必要も、リコーダーや絵の具セットを買う必要もないどころか、鉛筆1本ノート1冊までいっさい購入する必要がないのだそうです。
その背景には、「民族、性別、経済状況にかかわらず、すべての子どもに、平等に質の高い教育の機会を与えること」という教育の大原則があります。きっかけは1990年初めのソ連の崩壊による経済的危機で、当時失業率が14%まで上がりました。親の精神疾患や家庭崩壊から学校に通えなくなる子どももいたそうです。そして、その当時、29歳の教育大臣が、その大原則を打ち立てたのだそうです。
ほかにも、家庭でも学校でも子どもをひとりの個として扱うこと、子どもの意見を尊重すること、学校に校則やルールがほとんどないこと、ほかの子や兄弟で比較をしないこと、男の子だからとか年下のくせにといった、「○○だから」や「○○のくせに」ということも言わないこと、得意を見つけて伸ばすこと、などお話されていました。子ども本人に考えさせ、自分で決定させること大切に、大人たちはサポートはするけれども、本人が決めるということを大切にしています。
ウェルビーイングに導くライフスタイル
「人は人、自分は自分」、お互いの違いを認めて、ありのままを受け入れ、干渉はしないという人付き合い。建前と本音という価値観がなく、深く付き合う友人は少なく、職場や学校では公平に人と付き合います。「人からどう思われるか」よりも「自分がどうありたいか」を大切にします。また、自然の中で、何もせずひとりで過ごす時間を国民みんなが大切にしているのだそうです。
何度でもやり直せる、まずはやってみて、うまくいかなかったらどうすればいいか考えるという考え方で、生涯学び、人生を自分で設計し、楽しむという生き方を大切にしているそうです。
(スタッフ戸田)
第2部は『コロナ禍の先にある未来~これからの豊森的学びとは』と題し、シルックさんと豊森実行委員長の澁澤寿一、専任講師の駒宮博男との鼎談です。
シルックさんのお話を受け、3人はフィンランドと日本(特に江戸時代頃の日本)の共通した感覚について話します。
最近、日本の若い人がフィンランドを訪れることが多くなり、その際には非常に居心地の良さを感じるんだとか。「黙っててもいい・断ってもいい・ハッピーじゃなくても良い、っていうような、ありのままの状態で受け入れられる環境がそこにあるんですよね。これはフィンランド特有なものではなくて、もともと日本にもあるはずのものが、アメリカ文化を否定するわけではありませんが、日本社会が戦後どんどんアメリカナイズされていて、表向きはとにかくハッピーに見せるっていうような、ちょっとそういうところに矛盾を感じているんです」とシルックさん。
駒宮さん「日本人は適応能力が強すぎて、何か刺激されると過剰適応しちゃうんでしょうね。」
また、シルックさんのお話の中に「数字でしか評価されない子」「自分の考えを創造力豊かに表現することよりも、たったひとつの教えられた(暗記した)答えのみを求められる傾向」について、渋澤さんは「正解に最短距離でどう行ったらいいかということの能力だけを、ものすごく評価をされる。そこを変えていく必要がある。その延長線上にある競争社会の中で勝ち抜かなきゃいけないというような社会のカタチを、どういう形でソフトランディングさせていくかを問われている」と語りました。
また、「日本は公立で進む子供と、幼稚園から大学まで私立で進む子供と、どちらがいいという話ではないのですが、住んでいる世界が違いすぎて、全く接点がないころが、やっぱり政治等の世界にもつながっていくのでは。子どもたちがその境を突き破って私は羽ばたいていくんだ!みたいな気持ちを持っても、なかなか支持されない。まわりの大人がそれを、ぜひやってみて!応援するから!って言えないような環境がある印象だ。」と、経済・学歴・ジェンダー・結婚・出産などなど、日本人同士でカテゴライズされる中で生活が決まっていくような社会に警鐘を鳴らしました。
澁澤さんは「分散型で地域自治を中心とした大人の社会ができていけば、当然その中で育つ子供達は変化する。今は一人一台タブレットをもち、やり方によっては個々に合わせた教育はオンタイムでできるようになった。ツールは持ったので、これからは社会全体がどこに向かっているのかという部分を修正していく、ちょうどいいチャンスだ」と語りました。
駒宮さんは29歳の教育大臣が教育改革を断行し、教育指導要領を1/3にして、現場の教師に裁量権を持たせることができた経緯について尋ねると、シルックさんは「最終的にその教育改革に踏み切ったことに繋がったのが、試算。ソ連が崩壊した影響の経済危機で、高い失業率や社会問題を抱えた時に、
1.国民が失業をして、国が社会保障を払っていくケース
2.教育を無償にして、みんなが対等に質の高い・レベルの高い教育を受けて自分できる力を身に着け、仮に失業してもそこからたな生き方を見つけていける、そういう能力を身に着けるケース
どちらが社会にとって有利なのか、どちらがよりお金が必要かという試算の結果、1.の教育を無償化した方が社会にとっては安上がりなんだということを証明し、そこから国民の賛同を得て、教育改革に繋がった」と解説。
駒宮さんは「フィンランドは自由とか、あるいは人生を選択する権利ですとか、言ってみれば、人間が自立して大人になるための教育をやっているような気がするが、日本は人間を大人にしない教育をやってる」と問題点が見えてきたところでタイムアップ。その後は50件以上の質疑応答の中からいくつかを共有しました。
令和2年度は新型コロナウィルス感染拡大防止の社会的要請から、開講を断念した豊森なりわい塾ですが、令和3年度は感染対策を十分に考慮した上で、第10期生を募集します。そのフィールドとなる豊田市と山村地域について、また、事務局を担う(一社)おいでん・さんそんが運営するおいでん・さんそんセンターの取組みについて、代表理事の鈴木辰吉が解説。
「コロナ禍の収束を含め、日本の将来を見通せない中で、確かなもの・守らなくてはいけない大事なものを見つけ出さなければ、未来は創造できない。コロナ禍が人類に突きつける大事なものは、支え合う社会のカタチではないか」と、哲学者の内山節さんの話を引用し、「豊森なりわい塾の役割は豊田市の山村を学びのフィールドとし、其々の塾生のみなさんにとって、確かなもの・守らなければならない大事なものを見つけ、其々の未来・人生を創造していただくことです。第10期にたくさんの皆さんがご応募いただけることをお待ちしています」と結びました。
今期の豊森なりわい塾は5回の豊森サロン(うち最終回は今回の公開講座)で終了します。